正直読書

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色々突っ込みどころのある「封印再度 WHO INSIDE」

封印再度 (講談社文庫)

封印再度 (講談社文庫)

  • 作者:森 博嗣
  • 発売日: 2000/03/15
  • メディア: 文庫

終始ハッピーな2人

S&Mシリーズ5作目。
見所は間違いなく、萌絵ちゃんの企てたエイプリルフールの悪戯だ。


諏訪野や周りの大人を巻き込んでまで犀川先生に一泡吹かせたい萌絵ちゃんと、柄にもなく翻弄されまくる犀川先生がとても可愛い。


多少のトラブルはあったものの、クリスマスも一緒。しかも犀川先生の自宅で2人きり。
国枝先生もにっこりしちゃうほどの仲の良さ。
これでカップルじゃないなんて、逆に不純なような気もする。

ちょっとあざとい萌絵ちゃん

前作「詩的私的ジャック」でも指摘(駄洒落じゃないよ)したことだけど、萌絵ちゃんの成長が止まらない。


「詩的〜」では内面の成長が目立ったけれど、スマートさや艶かしさ、狡賢さなんかも身についたようだ。
一言で表すと、「魅力的になった」。
あざとい、とも言えるかもしれない。


「あざとい」と人を評する場合、それは必ずしもプラスの意味とは限らない。
でも言いたい。あざとい萌絵ちゃん素敵。


最初からこのキャラだったら、なんか鼻につく嫌な奴で終わっていたかもしれない。
萌絵ちゃんにここまで好意を持てるのはシリーズ5作の積み重ねがあるからだ。


正直なところ、「すべてがFになる」で初めて萌絵ちゃんを知った時、ザ・お嬢様という感じがあまり好きになれなかった。


だが、読み進めていくと、彼女なりに上手くいかなかったり、学んだりすることがあって、いじらしい。
シリーズを重ねていくうちに、「人格」を感じられるようになったのだ。


そして今、持てるものをすべて利用していく狡猾さや力強さが加わり、完全体になった萌絵ちゃんに死角はない。

肝心の謎解きは・・・

今回は、不思議な壺と倉の中の密室殺人に焦点を当てたストーリーだった。


壺の中にすっぽりと入った鍵を取り出す方法。
倉の中に「おじいちゃんはいなかった」と証言する孫。
誰も居ないはずの倉の中で吠える犬。


めちゃくちゃ素敵なミステリーだと思ってたのだが・・・



倉の中の密室殺人、本気ですか・・・?
正直、シリーズで一番無理のあるトリックだった。


孫と犬のくだりは「いやそれはないよ」と口に出しちゃうくらいだったし、
道中の交通事故も物理的には可能かもしれないけど、普通そんな行動取らないよな。


壺の方は、まあ。
そういうものなのね、と思えば飲み込むことができた。
まあ、許そう。



今作は萌絵ちゃんと犀川先生の活躍が素晴らしく、ミステリーのモチーフも良かった。
それだけに、謎解きがお粗末なように感じてしまった。

それ以外の感想

とりあえずタイトルが良い。
シリーズで一番キャッチーで、英タイトルも完璧(萌絵ちゃんは完璧って漢字書けないんだよね)。
シンプル・イズ・ザ・ベスト。


森博嗣作品で最も好きなタイトルは「夢・出会い・魔性」(「夢で逢いましょう」と「You may die in my show」と掛かってる!天才!)だが、それに次ぐ綺麗なタイトルである。



そして、物語の最後に登場する儀同世津子さん(何故かフルネーム)の隣人。
お前こんなに早くから登場してたのか…。


パソコンとTVの区別も付いていない、ナチュラルな機械音痴具合が恐ろしい。


彼女の動向は厳しく監視していきたい。