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森博嗣の手のひらで転がされる「幻惑の死と使徒」

幻惑の死と使途 (講談社文庫)

幻惑の死と使途 (講談社文庫)

  • 作者:森 博嗣
  • 発売日: 2000/11/15
  • メディア: 文庫

曖昧さのなかにある核心

本作の被害者はマジシャン。そして舞台はマジックショー。
イリュージョン中に亡くなった彼は、どうして殺されたのか。


イリュージョンのトリックや、容疑者であるマジシャン仲間の思惑、そして犀川先生と萌絵ちゃんの関係など、いろいろなものが曖昧なまま進んでいく。


ショーの最中にマジシャンが殺害され、葬儀中に死体が消える…衆人の目の前で起きた事件である。
目を疑うような事態が次々と起こるさまは、「幻惑」のタイトルにぴったり。


しかし、物語は意外な結末で幕を閉じる。
この意外さは、これまで感じてきた曖昧さとの間に生じたギャップによるものだ。


殺人の動機は、異様なまでの執着心。
「個」よりも大事なものを優先したまでの行為。
すべてが分かってしまうと、これまでの霧の中にいたような心持ちがすっかり変わって、「なあんだ、そうだったのか!」と、膝をうちたくなる。


この意外さを出すために、あえてこれまでの道のりを漠然としたものにしたのかな、と思わざるを得ない。
結局、わたしは森博嗣の手のひらで転がされているのだ・・・。

本当に1997年の作品?

S&Mシリーズは、1996年〜1998年の間に第一版が発表されたものだが、未来を見てきたとしか思えない表現が多く登場する。
工学博士である森博嗣の先見の明が研ぎ澄まされているからなのか、理系ならこれくらい分かるよ、というレベルの問題なのか、一般文系女のわたしには一生理解できない領域であろう。


今作で驚いたのは、被害者のマジシャンをネット検索する場面。
当時では珍しいのだろう、マジシャンに関する情報をまとめたホームページが出来ていた。

なんか、こういうの見てるとさ、一般の人たちがみんな評論家になっていくみたいで、どの情報を信じたら良いのか、どんどんわからなくなるよね

だんだん、自分の日記とか、独り言みたいなことまで全部公開されて、つまり、みんながおしゃべり状態で、聴き手がいなくなっちゃうんだよね

それはそれで、価値はないんだって初めから割り切れば、面白いんじゃないかしら


えっと・・・
「幻惑の死と使徒」発表:1997年
Facebook創業:2004年
Twitterサービス開始:2006年7月
いま:2021年2月


Wikipediaさん、これほんとうに合ってます?
森博嗣って何者なんです?(n回目)

その他の感想

トリックはまあ置いといて、犯人の思想とか結末はすごく良かったなあ。
今まで特に謎解きについて色々と文句を言ってきたけど、今作はツッコミをいれるところがない。
夏のレプリカ」が好きすぎて、あまり印象になかったけど、改めて読んでみると良作だ。


「え、S&Mシリーズ10作もあるの!?時間がないので5作に絞ってもらえます・・・?」
っていう人がいたら、迷わず本作を勧める。
前後の流れ無視するなら、これだけ読ませても良いかも知れない。
まあそんなの許しませんけどね。


本当にその他の感想。

・ジョークを言ったり、爆破されたビルの破片を大事そうに抱える国枝先生。かわいい。

犀川先生の木版画のくだりとスイッチのくだり、萌絵ちゃんのこと好き過ぎでしょ。

・はやく杜萌ちゃんのことを書きたい・・・。