正直読書

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シリーズで一番地味かもしれない「冷たい密室と博士たち DOCTERS IN ISOLATED ROOM」

冷たい密室と博士たち (講談社文庫)

冷たい密室と博士たち (講談社文庫)

  • 作者:森 博嗣
  • 発売日: 1999/03/12
  • メディア: 文庫

SMシリーズ2作目。
正直、謎解き自体はシリーズの中で一番地味だと思っている。
前作の「すべてがFになる」で「うおおおお最高!」となった人が、今作で「あれ…やっぱいいか…」とならないものか、勝手に(余計なお世話)心配してしまうほど。


なぜ今作が地味なのか、個人的には、事件が起こった場所の間取りが分かりにくいことが1つの要素としてあるのではないかと思っている。


事件の舞台は大学の実験室で、そもそも作りが複雑だ。
それに加えて、犯人が意図的に煩雑な動きをしたことにより、私は大混乱に陥った。


ちなみに今作を読むのは2度目である。
おおよそのストーリーは把握しているつもりだったが、それでも混乱を免れることはできなかった。


森博嗣に試されているのかもしれない。
困難な状況にあっても冷静に読めるか、論理的な思考ができるか、私は試されていたのかもしれない。


だが、森博嗣の期待に私は応えることができなかった。


一番最初のページに舞台の見取り図があるのだが、真剣に見ずに進めてしまった。
電子書籍ユーザーにとっては、いちいち前のページに戻るのって結構面倒なのだ。


それに、数学の授業に出てきた平面図とか立体作るやつも苦手だったし。


そもそも娯楽の読書なのにお勉強の気持ちで臨むのはナンセンスだ。

色んな言い訳で着飾って、仕方ないと笑っていた


こういう時、秦基博の歌詞を思い出す。

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他作品の感想でも述べたが、物語の趣旨を理解しないで進める読書ほど、苦しいものはない。


そうしてたどり着いた結末が、これまでの道のりに対して地味だと感じたら、どんな感想を抱くだろうか。


残念ながら、今回の犯人の動機は、前作の真賀田四季のような、一般の理解を全て拒むような高尚な理屈ではない。


「まあどこかで見たことあるようなやつだな」とか、「それくらいで殺人するのか…」という印象を持つ読者が多いのではないだろうか。


そんな認識でいたところに、犀川先生が「芸術的」「完璧」と評するものだから、物語と自分はかなり遠いところにいたのだと少しショックを受けてしまう。


今作を好きになれない理由はこんなところで置いておいて、良いところを。


犀川先生の同級生の乱入や、萌絵ちゃんの勇敢な行動によって、犀川先生が意外と萌絵ちゃんのことを想っているのが分かってとてもよい。


萌絵ちゃんをうっかり名前で呼んだり、気遣う様子が度々見られたりする。とてもよい。


私は恋愛小説を読んでるのかな?と錯覚するほどだ。
ミステリーとの温度差が大きいので、苦手に感じる人もいるかもしれない。


あと、萌絵ちゃんがただのお嬢様でないことが分かってくる。とてもよい。


とまあ、こんなところかな。
今作を楽しく読む鍵としては、謎解きではなく、登場人物の魅力を楽しめるかどうかにかかっているようだ。