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原点にして頂点「すべてがFになる THE PERFECT INSIDER」

すべてがFになる (講談社ノベルス)

すべてがFになる (講談社ノベルス)

  • 作者:森 博嗣
  • 発売日: 1996/04/03
  • メディア: 新書

いやぁ、最高でした。犀川先生と萌絵ちゃん最高。可愛い。
二人の結婚式いつですか?


殺人事件に関するミステリーパートと、犀川先生と萌絵ちゃんのイチャイチャパートが交互に描かれる複合型ミステリー。

二人のコミカルなやり取りとは裏腹にミステリーパートは終始論理的で冷静。
この温度差が癖になる。



事件の謎解きを結構丁寧にしてくれるのでなぜ密室で殺人が起きたのか、トリック自体は理解できる。
だが、「その方面」に詳しくない人間からすると、正直「はあ、そんなもんなんですか」程度。
仕組みが非常に複雑だということだけは伝わる。


大事なのはここから。
仕組みを理解すると、どうやって密室をクリアしたのか、その部分よりも
「誰が」「なぜこの状況で」「その行動をしたのか」という部分がふと浮かび上がってくる。


その瞬間、複雑なカラクリが非常に空恐ろしいものに感じられる。
この一瞬のゾクゾクっとする感覚が最高。


ステマティックで機械的な冷たさが、人間の持つ残忍さに変貌する瞬間だ。


本作含め、森博嗣作品の多くには英語のサブタイトルが付いている。
今回は「The Perfect Insider」。
これってそういうことか!という気づきでまた恐ろしくなる。
ゾクゾクが止まらない。最高すぎる。


このゾクゾク感はSMシリーズで多用されているが、中でも本作はそれが良く表現されている。
原点にして頂点とはこのことだ。


※SMシリーズとは:犀川先生と萌絵ちゃんの頭文字を取っている。全10作品。森博嗣はこの他に色々なシリーズものを書いていて、それらが少しずつ相関しているので即ち沼の入口である。


ここまで絶賛しておいて、だが、恐らくこの本は万人受けするものではない。
人によっては受け入れるまでに時間がかかる。私もその一人だった。


「理系ミステリー」と呼ばれているように、専門用語が飛び交う会話に終始クラクラするし、
キャラクターが濃すぎる。そう思ってた時期がありました。


萌絵ちゃんって美人で天才で財閥のお嬢様で、両親を事故でなくしていて、
親族のコネを生かして警視庁やら財界やらに顔が利くとか、設定盛り過ぎじゃない?


犀川先生もやれやれ系准教授のくせに、事件の真相に一人で気がついて「そうだったのか…ブツブツ」ってやったり、
物語のあらゆる女性から好意を寄せられたり、出来すぎじゃない?
何なんですか、32歳の天才イケメン准教授って。

※イケメンという表現は本作ではされていない。私の妄想である。


そう思ってた時期がありました。



なんだか登場人物引っかかるなあ〜と思いながら2作目、3作目…と進む中で、いつの間にか彼らを受け入れている自分がいた。


これは後に分かるのだが、犀川先生と萌絵ちゃんと対峙することになる真賀田四季は、とんでもない猛者である。
なので彼らのキャラ設定と関係性が強固なものでないと負けてしまう。
真賀田四季だけではない。他にも魅力的なキャラクターや事件が続々と登場し、二人の運命を翻弄する。


犀川先生も萌絵ちゃんも、彼らはああいうキャラクターでなくてはならなかったのだ。
萌絵ちゃんが完璧超人で、犀川先生がやれやれ系イケメン准教授で、
萌絵ちゃんが犀川先生にぞっこんじゃなきゃいけなかったのだ。


「ミステリーにおける恋愛要素は、オマケ色が強い」という偏見持ちな私は、
どんなに良いミステリー小説でも色恋の空気が漂った瞬間に一度本を閉じるのだが、SMシリーズは特別だ。


そこらの恋愛小説よりよっぽど丁寧に過程が描かれている。SMシリーズって恋愛小説だったのかな?



というわけで、本作を読んで「えぇ…」と少しばかり感じてしまったとしても、
「ミステリーそのものは良かった」と思える人はもう少し読み進めてほしい。
それでハマらなかったらごめん。


私は一度SMシリーズを読破し、他シリーズも何作品かは読んでいるのだが、
シリーズ第一作目の本作は、「あっ…これってあのときの…」が頻繁に登場するのでKindleのマーカーを多用しまくった。
後から何度も楽しめる作品になっている。