正直読書

本のこと、日常のこと。司書の勉強中。

大震災と多重人格者が織りなす異色ホラー「十三番目の人格(ペルソナ)―ISOLA」

阪神淡路大震災で被災した多重人格者の女子高生・千尋と、エンパス(人の感情を深く読み取る能力を持つ人)である由香里が出会い、千尋に宿ってしまった邪悪な人格「ISORA」に立ち向かうサイコホラー。


大震災と多重人格者、そしてそこに宿ってしまった邪悪な人格と対峙しなければならない。
常人ではどうしようもできない状況に、序盤から不穏な雰囲気満載である。


千尋にはISORAの他に12の人格がある。
悠子や満といった名前で、それぞれの漢字に則した性格を持っている。
じゃあなんでイソラは英語なのかというと…という種明かしが面白い。
途中から「読める…展開が読めるぞ…」となったとしても、この謎が解ける人は絶対にいない。それくらい斜め上なのか下なのかという高度なものである。


作中ずっと気になっていたこととして、「雨月物語」の「磯良」が一般的に知られた存在として描かれていること。
イソラという名を聞いた途端、「え、あの雨月物語の?」とはならない。
登場人物達がそういう反応をしても、雨月物語の磯良なるものがどういう人物かはしばらく語られないので、モヤモヤが堆積する。それも仕組みのうちなのかもしれないけれど。


貴志祐介の本は「新世界より」に続き本作が2作目。
oinusamausagisama.hatenablog.com

新世界より」との共通点を2つ見つけたので紹介したい。


①「追われる描写」の悪夢感
新世界より」はバケネズミや業魔などなど、やたらめったら色々なものに追われるが、本作は由香里達がイソラに追われるシーンがある。
追われている状態でありながら営もうとする由香里の度胸にはちょっと驚くが、ジリジリと焦燥感と恐怖を植え付ける描写はさすが。


②女性がリアルじゃない
敢えてなのかもしれないけど、本作の由香里も「新世界より」の早季や真理亜がなんかリアルじゃないんだよなあ…。
フィクションだし、特段リアルさを求めているわけではないが、なんだろうこの不自然な感じ。
女性を美しく描こうとしすぎているような?
もうちょっと女って色んな意味で汚いところがあると思うんだけど、皆さんとても清廉潔白。


由香里が昔夜の店(?)で働いてたという話を黒歴史として扱っていたので、どんな後ろ暗い話なのかと思っていたら、
客とは接触せずに、お話を聞くだけで人気になれて、処女を守ることができたという話。
あり得るか否かは置いといて、勿体ぶる程度かというと甚だ疑問。
処女喪失したとか、濃厚接触しまくってたとかだったらまあ分かるんだけど、伝え方によっては堂々と話せる経験だと思うのだが。


なんか処女というところにこだわりがあるのかなあ。素朴な疑問。
確かに処女か非処女かの違いは人物像にも影響かもしれないけど、初体験は特別かもしれないけれど、その要素やエピソード、この話に必要?


少し話が逸れたけど、恐怖の芽を摘みきらない幕引きや、妙に説得力を持った非日常はさすが貴志祐介という感じ。
一言でいうと異色ホラーかな。