色褪せないハードボイルド小説の名作「不夜城」
- 作者:馳 星周
- 発売日: 1998/04/23
- メディア: 文庫
新宿歌舞伎町を舞台に、中国人のヤバい奴らがなんやかんやする物語である。
というふうに説明すると、ちょっとキャッチーにも見えるが、実際は絶望の連続。バイオレンスアンドバイオレンス。
第163回直木賞に選ばれた「少年と犬」と本当に同じ作者なのか…?
- 作者:星周, 馳
- 発売日: 2020/05/15
- メディア: ハードカバー
「おれはおまえを連れいていきたい。おまえが望む場所にだ。だけどな、そんな場所はどこにもないんだよ、夏美」
何度も周りの人間を裏切り、裏切られ、居場所のない健一のこの言葉が沁みる。
夏美もまた、信用のおける人間ではない。
それを嗅ぎ取った上で、彼女を文字通り「命がけで」愛してしまったのである。
ジリジリと追い詰められていく中で、彼らの言葉は限りなく切なく、不仕合わせな結末を予感させてしまう。
バイオレンスな描写はとことん暴力的に描くことで、こういうウェットなシーンが驚くほど輝く。
ものすごく上からだが、小説の出来という意味でいうと最上級のものだと感じる。
1996年に発表され、四半世紀近く経った今でも名作と言われる所以がわかる。
「これは久し振りになんかすごい大作と出会ってしまったなあ」と思った私が本作のことを母親に話すと、「それ私も読んだよ」という返答。
発表当初に読んでいたらしい。25年遅かったか…。
母親曰く、歌舞伎町を舞台に中国人マフィアが暗躍する物語が衝撃だったとのこと。
コロナ禍になり少し状況が変わっているかもしれないが、新宿や池袋や大久保などの都心は勿論のこと、身近に外国人がいるのは当たり前で、場所によっては日本人が全くいないというところもある。
日本に外国人だけで構成されたコミュニティがあるのは、目新しくもなんともない。
この小説が発表された当時だって、外国人のコミュニティがあったはずだ。きっと、見えなかっただけなのだ。
残念なことに、その時代を私は知らない。
確かにそういう時代にこの小説が出てきたら度肝を抜かれる…ような気がする。
でも発表された当時の空気感とか、大衆の反応とか、空想では分からないことがたくさんある。
「衝撃」とやらを私も味わってみたかった。25年遅かったか…。