正直読書

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話題の本を読んでみた「文豪たちの悪口本」

文豪たちの悪口本

文豪たちの悪口本

  • 発売日: 2019/05/28
  • メディア: 単行本

何だ、おめえは。青鯖が空に浮かんだような顔をしやがって

初対面の太宰治に対し、中原中也が言い放った言葉。
本書は、伝聞・書簡・日記・新聞などなど、ありとあらゆる文献を洗って文豪たちがどんな悪言を生み出したのかを紹介しているが、
この言葉ほど力強く、かつ理不尽でユーモアに満ちたものはない。


文豪たちの言動は、SNSや各メディアで大きな反響を呼んでいた。
先に上げた中也の言葉もSNSでバズっていたので知ってはいた。
こんなに面白い言葉があるなんて、原典には他にどんな悪口が載っているんだろうか?と非常に期待をしたのだが、
結局この言葉を超えるものは見つからなかった。少し残念である。期待しすぎたか。


この他に良かったのは、太宰治志賀直哉に対して毒心むき出しで綴った「如是我聞」
志賀直哉の発言1つ1つに難癖を付けたり、著作もわざわざ手に入れて粗探しをしたりと、
ここまでやる執念には呆れを通り越して畏敬の念を感じずにはいられない。
この必死さが面白く、愛らしくも思える。


「好き」の反対は「無関心」だと言う。よく聞く。
それに則っていえば、太宰だけでなく、この本に載っている文豪すべてに対してツッコミが入るのだが、
個人的には「好き」の反対は「悪意」だと思っているので、罵詈雑言の数々において私から申し上げることは特にない。
好きの反対は無関心という論理に一度も共感をしたことがないので、そういう本があるなら読んでみたい。


相手に嫌悪感を抱いた時に、文豪と呼ばれる人間がどのような言葉を使うのか、また文壇における人間関係が垣間見える本だった。
共通の敵を作って一緒に攻撃するというのは、今も昔も変わらない。


期待をしすぎた感は否めないが、面白く読むことができた。

それだけ、文豪というコンテンツに期待をしているということなんだろう。
没後百年近くになってもなお新たな作品が生まれ、そのたびにスポットライトが当たる。
現代でも、そういう作家が多く生まれると良いな。


あと、バズるSNSって引用の仕方が上手なんだと思った。
この本がとても魅力的に思えたし、もっと知りたいと思わせる文章は私も参考にしたいなあと。