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緻密に作り込まれた世界観に圧倒される――『新世界より』

新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(上) (講談社文庫)

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1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖(かみす)66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄(しめなわ)で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力(サイコキネシス)の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。 (講談社文庫)<<

(注)半年以上前に読み、現在手元に本がないため、若干うろ覚え感想文です。


はい。名作です。誰が何と言おうと名作でございます。

世界観の作り込みが入念すぎて、本当に創作なのか疑わしいですよね。この世界が貴志祐介の脳内にしか存在しないなんて・・・。

wikipediaで調べてみると、いち小説とは思えない内容の濃さに驚きます。

wikipediaだけでおおよその内容が分かるので、小説の長さに屈してしまった場合はここを見ればOKですね。


・・・小説、長いですよね。

あれだけの内容を詰め込むのだから長くなるのは当然のことなのでしょうが、それでも一部間延び感があったのは否めません。

挫けそうになったのは、洞窟を彷徨う場面や、バケネズミからひたすら逃げ回る場面。ひたすらに長い。逃げ場のない悪夢のようでした。

「サイコ・バスター」を手に入れる場面も長丁場だったように思いますが、さすがにクライマックスだったので踏ん張りました。


この小説って、舞台は最高のSFですが、内容は少女少年の冒険譚なんですよね。

これは好みの問題なのでしょうが、そこまで世界観を作っておいてその内容をやるのか・・・という感想を抱いてしまいました。

私は古代文明が滅びて現代文明が成り代わった経緯や、バケネズミが作られた過程、学校から消えた生徒の行方など、「箱庭」そのものについて知りたかったのであって、箱庭の中で歯車として生まれた少女達にはあまり興味がなかった・・・。


箱庭の魅力的な謎は物語の序盤から発現していて、

「いつ仕組みが解明されるのかな?わくわくっ」

という期待を抱きながら読み進めて、物語の趣旨が私の求めていたものでなかったのだと勘付いた時の悲しさと言ったら・・・

まあストーリー自体がよく出来ているので面白い小説には違いないんですけどね。


ちなみにバケネズミの正体が最後に明かされますが、あれ予想外すぎてリアルに声が出てしまいました。

えっ?そんな重要なことを後日談のように明かすの?その事実知ってしまうと物語の見方がだいぶ変わってしまうんですが・・・?

というラストが待ち構えていますので、ちょっと挫けそうになってもぜひ最後まで読んでいただきたいです。

私はこの「バケネズミショック」を受けて読んでよかったなあ〜となりました。


緻密に作り込まれた世界観と、魅力的な登場人物達と、人類が辿った「新世界」への道筋。

私の好みど真ん中とはなりませんでしたが、現代SFの名作です。

SF好きな方はきっとハマりますので、時間に余裕がある時に読むのをおすすめします。一気読みするにも文量が多いですからね。


私としては、バケネズミの面々から見た「新世界」をスピンオフ作品として作っていただきたい。

絶対面白いから。ぜっっっったい面白いから。

・・・どうですかね、貴志さん?