嘘から始まる愛の物語「嘘」
真っ赤な嘘、真っ白な嘘。「嘘」という概念に色付けをした人は、どうして嘘を色で区別したのだろう。
この本の登場人部は、実に様々な嘘をつく。
保身のため。大切な人を守るため。本心を隠すため。
そのほとんどが大人による我が身可愛さの嘘であり、多少うんざりした気持ちになる。
飲酒運転をして人身事故を起こした公務員の久江は、あろうことか倒れている少年を放置して逃げようとする。
息子を失った千紗子は、少年に息子の影を見出し、自分の子供として育て始める。あなたは私の子なのよと嘘をつきながら。
少年との関係は、言ってしまえば彼女たちのエゴや保身のために始まった。
しかし、嘘から始まったとは思えないほど、あたたかく、優しい世界に私は戸惑った。
嘘はいけないことなのだ。早く明かされないと、どんどん悪い方向に流れていくというのがお決まりなのだ。
嘘がばれたらどうなるのか、一生ばれなかったらどうなるのか。
少年や千紗子に「本当に」心安らぐ瞬間が最後まで訪れなかったように、私も終始落ち着かない気持ちで読んでいた。
嘘は突然、思いがけない形で明かされる。
考えうる最悪の形である。そのはずなのに、なぜか私には平穏が訪れていた。やっと「こうあるべき」ところに辿り着いたからだ。
こう感じるあたり、私にペテンは務まらないと実感させられる。
少年は「本来いるべき」ところに連れ戻され、千紗子には「しかるべき」ペナルティが課せられた。
これでいいのだ。これが本来なのだ。やっぱり嘘はいけないんだ…。そう思っていたところで、奇跡のようなどんでん返しが最後に待っていた。
結果、ハッピーエンド。よかったよかった。
良かった、まだこういう本で感動できる私は捨てたもんじゃない。